INTRODUCTION|概要
フィンランドには約40の大学があり、そのうち80%以上がオープンバッジを活用しています。
中でも特に、スキルベース、コンピテンシーベースのバッジの開発と社会への実装に取り組んでいるオウル応用科学大学が関わった3つのプロジェクトをご紹介します。

BACKGROUND |フィンランドの教育制度
フィンランドは人口約550万人の国です。これは、日本で言えば北海道と同じくらいの規模に相当します。
人口の9割以上がフィンランド人で、他民族が共存するヨーロッパの他の国々に比べると、日本に近い状況かもしれません。
教育制度の中で、フィンランドは学業、仕事、趣味、日常生活で求められる横断的なコンピテンシーを身につけることを目指し、生涯を通じて積極的に学び続けることができるような教育を実施しています。
フィンランドでのオープンバッジ活用状況
フィンランドでは、さまざまな分野でオープンバッジの使用が広がっています。
かつては視覚や修了証のデジタル化に使われてきましたが、スキルやコンピテンシーを認定する手段としての利用も増えています。
オープンバッジ発行のためのシステムは、世界中に50以上存在していると言われています。
それぞれのシステムには異なる機能があり、何を重視しているかが異なります。
そんな中、フィンランドではスキルベース、コンピテンシーベースのバッジを発行するのに適したプラットフォームが選ばれています。
引用:https://youtu.be/97Bip8Jc2qg?si=NwH96wDcP8q8J5az

フィンランドでのオープンバッジ活用背景
スキルの記載には国際的なスキル標準や国家的な標準を設計して参照し、質の保証を高めている事例が多く、バッジシステムの開発には、大学が単独でバッジを発行するケースもあれば、複数の教育機関、企業、団体、自治体などが協力してプロジェクトを進めるケースも多くあります。
特に産業界がオープンバッジの導入に積極的に関わっており、業界のニーズに合わせたスキルバッジシステムの開発が進んでいます。
これにより、実務で必要とされる具体的なスキルや能力が可視化され、認定されるようになっています。

ヨーロッパにおけるガイドライン
ヨーロッパには、スキルやコンピテンシーの基準を定めたガイドラインがいくつか存在します。
フィンランドでは、以下のようなフレームワークがよく参照されることが多いようです。
EQF とEQAVET (イークァヴァット):はどちらも職業訓練の品質を保証するフレームワークです。
ESCO(エスコ):ヨーロッパ全域でのスキル、資格、職業の共通言語となっています。
DigComp(ディグ コンプ):個人のデジタルスキルを定義します。
LifeComp:個人が社会的および職業的な課題に対処するために必要なスキルを定義します。
GreenComp:持続可能な開発に貢献するために必要なスキルを定義します。
これらのフレームワークは、個人が社会で、また職業的に成功するための支援を目的としています。
PROJECT 1 |持続可能な観光業へのオープンバッジの活用
フィンランドでの一つ目の事例は、持続可能な観光業へのオープンバッジの活用です。
オウル応用科学大学は、ラップランド・トゥルク地域にある4つの大学と協力し、持続可能な観光のための全国的なオープンバッジフレームワークを構築しました。
目的は、観光業に従事する方、観光事業を開発する方が自身のスキルをアピールできるようにすることです。
つまり、大学生ではなく、地域社会や現場で働く人々のためのバッジです。
背景には、ラップランドとフィンランド諸島の観光業の課題がありました。
これらの地域には、大小様々なホテル、レストラン、アクティビティショップ、旅行代理店などが存在し、観光シーズンには人手不足が深刻化します。
多くの小規模事業者が存在するため、適切な人材を見つけることや人材不足に対処することが困難でした。
このオープンバッジフレームワークによって、観光業で求められる具体的なスキルや知識が明確になり、業界全体の人材育成と人材不足の解消を目指しました。
- スキル & コンピテンシーベースのバッジ
- サステナブルな観光業へ
- 観光業の従事者のスキルを可視化
- 4つ大学と1つの職業訓練校による共同でのプロジェクト
- 観光業界・従事者に最大のメリット(学生向けのバッジではない)
バッジ構成は、シンプルです。
赤色のバッジは、EQF6レベルに相当し、専門家レベルを示します。
緑色のバッジは、EQF4レベルに相当し、職業訓練レベルを示します。
複数のミニバッジを集めることで、カラフルなメタバッジを獲得できるスタッカブルな構成となっており、スキルアップへのモチベーション向上にもなります。
バッジの種類には、以下のようなものがあります。
- 地域の歴史、文化、自然を効果的かつ安全にプレゼンテーションするスキル
- 地域を活かした新しい観光商品の開発スキル
- 多言語対応能力や異文化理解などの接客スキル
- 環境保護、地域社会への貢献、文化遺産の保全などに関する知識
- イベントの企画や実施に必要なスキル

〈バッジの一例〉サステナブル ツーリズム スペシャリスト - 持続可能な観光の専門家
例えば、バッジの記述には以下のような情報が含まれています。
EQF6レベルに相当すること。
オンラインコースを通じてそのスキルや知識が証明されること。
このバッジが国家の持続可能な観光業を支援するバッジシステムの一部であること。
これにより、バッジが持つ意味や価値が、受領者だけでなく、他の教育機関や雇用主にも明確に伝わります。
→Sustainable Tourism Expert バッジの実際のページ
→Sustainable Tourism Specialist バッジの実際ページ

〈バッジの一例〉地域の文化と伝統
地域文化と伝統のバッジには、発行プロセスにおいて、各大学の専門トレーナーによる審査が行われると記載されています。
これは、バッジが示すスキルや知識が、高い専門性と信頼性を持っていることを保証するためです。

プロジェクト成功の鍵
プロジェクト成功の鍵を4つにまとめました。
1つ目。ラップランドとトゥルク地域の企業へのヒアリングを実施したこと
2つ目。既存の資格や基準をスキルフレームワークに組み込んだこと
3つ目。客観的な評価方法を開発したこと
4つ目。必要なスキルをEQFなどの既存のフレームワークに基づいて分類したこと
これにより、企業と求職者のマッチングが容易になり、地域の人材活用が効率化されました。
大学が学術的なアプローチを通じて地域社会に貢献する取り組みとしても成功している事例です。
引用:https://youtu.be/O9NyMMoIAZo?si=6Hpru9HigZSeM9KK

PROJECT 2 |カーボンニュートラルな学校を目指して
二つ目の事例として、オウル応用大学が関わり、オウル市の教育文化局が主導で進めた「気候学校プロジェクト」をご紹介します。
このプロジェクトの目的は、若者たちが気候変動に対する不安を感じていることに寄り添い、高校をカーボンニュートラルな学校にすることを目指すオンラインの探究学習環境を開発することです。
学校全体で二酸化炭素排出量を削減し、持続可能な未来を目指すために、生徒と教師が協力して取り組むことができます。

「気候学校プロジェクト」では、42のステップが「食品」、「ビジネス」、「インフラ」、「態度」という4つのテーマに分けられ、ラーニングパスウェイとして構成されています。
各テーマにおける5つのマイクロバッジを集めることで、そのテーマのメタバッジを獲得できます。
また、20個のマイクロバッジを集めると、エキスパートバッジを申請することが可能です。
エキスパートバッジの取得者は、高校生でありながらオウル応用科学大学の単位を取得できます。

アセスメントでは探究活動のレポートをアップロードしたり、小テストに回答をしたりして、それがバッジのエビデンスとしても公開されます。
引用:https://youtu.be/8l3bRNGtYWQ?si=PHfXhoC_3uV4WiKq
引用:https://koulunkorjausopas.fi/
引用:https://openbadgefactory.com/c/earnablebadge/QX9CW0a256a52A/apply

PROJECT 3 |インフォーマル教育における IT 関連の問題解決スキル
フィンランド三つ目の事例はTIEKE(ディエゲ:フィンランド情報社会開発センター)の取り組みです。
TIEKE(ディエゲ)は、非営利団体で、フィンランド国内でのデジタル化を促進する組織です。
公的機関、民間企業、教育機関など、幅広いセクターと連携しています。
そのTIEKEがデジタルスキルを活用した問題解決能力を評価する、フィンランドの国家的なシステムを開発しました。
個人のスキルアップを促進し、教育、仕事、社会生活におけるデジタルスキルの向上を目指しています。
バッジは5つのカテゴリーに分かれており、
目標を達成するための総合的なスキル、コンピテンシーをベースに構成されています。
スキルは「何ができるか」に焦点を当て、コンピテンシーは「どのようにそれを行うか」と「なぜそれが重要か」を含む、より広い概念で、これらのバッジは、フィンランドの学校で使われている教育のルールブック「ePERUSTEET(エペルステェット)」や、ヨーロッパ全体で共通のスキルの基準「Dig Comp(ディグ コンプ)」を参照して作られています。

〈バッジの一例〉デジタル・サブスクライバー
このバッジの特徴として、受領者数の多さがあります。
このデジタルサブスクライバーバッジは1522人が獲得していますが、
その裏には発行組織数 39という数があります。

オープンバッジは同一のバッジを複数の組織が発行できます。
このバッジはオウル応用大学やトゥルク応用大学をはじめ、地域のコミュニティカレッジ、デジタル技術系の専門学校や財団、職業訓練校、など校種は違っても、同じコンピテンシーの習得を目指す組織が学習者に対して発行しているところが特徴的です。

バッジは学習者が主体的にバッジ申請を行い、エビデンスとなるアセスメントを提出することで審査され、発行されます。
バッジ受領者が提出したアセスメントはオープンバッジウォレットの画面上で公開されています。
引用:https://www.slideshare.net/openbadgefactory/obf-academy-webinar-competitive-skills-a-national-open-badge-constellation-of-problemsolving-in-technologyrich-environments-in-finland

CONCLUSION|総括
フィンランドではリコグニションの側面、スキルやコンピテンシーの記述に重点が置かれるようになってきておりバッジシステムの開発は、大学が単独で発行するものもありますし、複数の教育機関、企業、団体、自治体などを巻き込んでの共同プロジェクトも成功例が多くあります。
産業界がオープンバッジの導入に積極的に関与しており、業界のニーズに合わせたスキルバッジシステムが開発されている点が特徴です。
労働のために必要なスキルを学び、一度社会に出た後も生涯教育を通して学び続けることが身近であることが、フィンランドで大切にされているウェルビーイングにも繋がっているようです。
大学は学ぶための場所という役割だけでなく、学術的なアプローチで社会に貢献する存在であるということがこれらの事例からも理解るのではないでしょうか。


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